マリー
「伊代と知美ちゃんを引き取る前から話し合っていたんだ。二人はそのまま向こうに住んでもらおうと思っている。卒業までもうすぐだし、優子もそっちのほうが良いだろう」

「でも、伯父さんの仕事場まで遠いし、大変になる」

 彼は目を細める。

「知美ちゃんに美佐と同じ思いをさせたくないんだ」

 彼の眼には様々な感情が浮かんでいた。彼は美佐があの町を飛び出してから、ずっと自分を責め続けていたのだと気づいたのだ。そして、彼自身も傷つき続けていたのだろう。

 そんな彼に負担をかけて良いのかと問えば、返事は決まる。

「大丈夫。だから、あの家に住むよ」

「すぐに決めなくていい。それに、夏休みに入るまで学校にはいかなくていいよ」

 知美は涙ぐみ、頷いた。

 今朝の学校の出来事で、居場所はないと思っていた。だが、自分の伯父がこうして作ってくれる。

 だから、完全に失望してしまう状態にはならなかった。

 その時、知美のお腹が鳴る。

「そろそろ昼か。何か食べようか」

 知美は将の言葉に二度頷いた。
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