マリー
 優子が首を絞められた日の黒い髪。

 前田の家が火事になった時の焦げる匂い。

 最近起こった身の回りの出来事で血を見るものといえば、笠井や岡江の怪我かもう一つ。

 それを思い描いた時、知美は身震いした。

 彼女が事故に遭った時、確かに血痕が飛んでいた。

 知美が軽く怪我をして、気づかないでマリーに触れ、今まで血痕に気付かなかった可能性もある。

 だが、美佐の冷たいまなざしが脳裏によみがえる。

 もともとマリーの持ち主は美佐だった。そして、彼女は悪魔だと言われる程、彼女の近くでは身近な人がなくなっている。

 彼女の澄んだ瞳が、知美の心を見透かした気がした。

 身震いして、マリーを落とす。

 だが、彼女は痛いとも言わないし、動かない。そのまま床を転がり、動きが止まる。

 彼女はあくまで人形だと言い聞かせる。

 だが、全身を駆け巡る脈の音をごまかせずに、知美はマリーを机の引き出しの放り込んだ。
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