マリー
 知美は心の中で謝り、鍵を受け取る。そして、駅まで送ると言ってくれた伊代の言葉に甘え彼女と一緒に家を出た。強い日差しが降り注ぎ、思わず腕で顔を隠す。

「その子ってどんな子なの?」

 間の抜けた声を出し、自分のついた嘘を思い出した。

「運動が得意で、明るい子です。お母さんがいつも仕事で忙しかったから、その子、有菜とお母さんが休みの日は良く遊びに連れて行ってくれました」

「良いわね。ずっと友達でいられると良いわね」

 知美は悪気のない伊代の言葉に頷いた。

 車は駅の閑散としたエントランスに止まる。知美は伊代にお礼を言うと、車を降りた。

 切符を買い、電車のホームに入る。そこでやっと一息吐いた。

 右手に持ったバッグの中にはマリーが入っていた。今まで知美の周りで、ここまでけが人が相次ぐことはない。だから、これをもとの持ち主である美佐のもとに戻せば、これ以上自分の周りで不可解な事件は起こらないと思ったのだ。

 
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