マリー
 翌日、知美はまだ太陽の日差しが弱いうちに、電車に乗っていた。辺りには背広を着た人や制服姿の人が時折欠伸をしながら、けだるそうに座っている。

 将が仕事に行くときについでに駅まで乗せてもらったのだ。

 将と伊代どこに行くのか心配そうに聞いてきたが、知美は気晴らしに近くの駅に行ってみたいと言ったのだ。帰りは伊代に迎えに来てもらうことを約束し、電車に乗った。

 その時、何度も脳裏に刻んだ駅名がアナウンスで告げられ、知美はそこで降りる。

 この学生で埋め尽くされた駅にはほとんどいったことはない。だが、この駅の近くには大きな川があり、海に通じていることは社会科の授業で学んでいた。

 知美は駅の裏口から外に出ると、駅の傍に流れる川から身を乗り出した。

 この川の難点は水量が少ない事だ。だが、数日前に大雨が降ったからか、水かさが増し、水流も早い。

 知美は右手を胸に当て深呼吸する。そして、マリーを入れた前の小学校の家庭科の時間に作った布製のバッグを橋の上から落とした。


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