マリー
 ……真っ暗な中にいた。

 足を強い力で引っ張られる。目を凝らそうにも、暗闇の中では何も見えない。

 その力から逃れるためにもがくが、足を引っ張る力が強くなる。

 何かが右の頬を掠め、目を凝らし、それが空き缶だと気付く。

 その直後、左の頬に痛みが走る。破片となったガラス瓶が知美の頬に刺さってたのだ。

 知美が痛みから声を出そうとしたとき、開けた口から水が流れ込んできた。

 先ほどより手をしきりに動かし、その場所から逃れようとするが、知美の体はより深く沈んでいく。

「苦しいよね」

 耳の奥に声がダイレクトに届く。長い栗色の髪が知美の首に絡みつき、声にならない声をあげた。

「わたしも痛かったんだよ」

 知美の視界を栗色の髪が覆い、目の前に夢に出てきた少女がいた。その目は冷たく、氷を連想させた。

 彼女の手が知美の手に伸びる。知美の手が動かなくなる。それを待っていたかのように強い流れが押し寄せる。彼女は自由の利かない体を案じながら、自分の意識が遠ざかっていくのを感じていた。
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