マリー
 体を起こし、辺りを見渡す。そこは自分の部屋だった。

 夢だったことに胸をなでおろすが、心臓の心拍数が全速力をしたときのようにあがっている。胸に手を当て、呼吸を整えようとした。だが、すぐには整えることもできない。

 先程の呼吸できない苦しみがやけにリアルに知美の脳裏によみがえる。

 もう夜が明け、カーテンの隙間から明るい光が舞い込む。

 水でも飲もうと立ち上がった時、知美の足に冷たいものが触れた。

 バケツの水をこぼしたように水が小さな川を作っていた。わずかなあかりを頼りに、その水が太くなっている部分を目で追っていくと、体を震わせていた。

 床に落ちていたのは知美が昨日川に捨てたはずのバッグだった。ファスナーは丁寧に開けられており、そこからも水が毀れていた。

 水滴が床に落ちる音がした。そこには水滴の塊があった。滴り落ちる雫の出どころは机の上だ。そこを確認した時、知美は声にならない声をあげる。

 そこには金の瞳の人形が無機質な笑みを浮かべていたのだ。
< 143 / 206 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop