マリー
 その箱には目立ったほこりもついていない。その箱に伸ばしながらも、心臓が鳴り、指先が震える。

 伊代が困ったように笑っていた笑顔が頭を過ぎる。

 自分がここにいるのは将がいるからだ。それは分かっていた。

 だが、箱を開けた時、それが確信へと変わる。彼の妻も娘も、知美の存在を望んでいなかった。

 そこに入っていたのは知美が少し前に友達に書いた手紙と、あどけない笑顔を浮かべた美佐の写真だったのだ。今の自分と同じか、それよりも下だろう。

 知美はそこに入っていた写真をかき集め、部屋に戻った。

 部屋に戻り、写真を床に広げると、その写真も無事なものだけではなく、何枚か破られた跡や燃やされた跡があった。誰かがこれをしたのだ。

「それでもあなたはこの家の人を信じるの?」

「信じるよ。信じないと、わたしはどこに行けばいいの?」

 唇を噛み、拳を握るとマリーをつかんだ。

 将だけは伊代や優子と違うと思ったのだ。

「結局あなたも彼を信じ続けているのね」
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