マリー
「彼って誰?」

「白井将」

 その言葉に知美の心が震えた。否定する言葉を喉の奥から絞り出しても、言葉にする事が出来ない。

「これから二人で生きていこうね。友達だから」

「やめて。伯父さんには何もしないで」

 マリーを揺さぶったが、彼女は何も言わない。

 知美は嫌な予感に背中を押され、階段を駆け下りた。

 今日は彼に仕事を休んでもらおうと思ったのだ。

 知美はリビングの扉を開けた。だが、先ほどいたはずの将の姿はそこにはない。

「伯父さんは?」

「今、出かけたところよ」

 耳元をマリーの笑い声が掠め、家を飛び出した。

 家の隣にある駐車場に向かう。将の車はまだそこにあった。知美は安堵をし、どう伯父に事情を伝えようか迷う。

「伯父さん」

 知美は将の車のフロントガラスを叩く。彼は知美と目が合うと、窓を開けてくれた。

「どうした?」

「危ないの。逃げて」

 将の向こうに栗色の髪がなびくのが見えた。
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