マリー
第十一章 決意
 知美は震える右手を左手で握りしめる。その知美の手を伊代が包み込む。彼女は顔を強張らせながらも、ゆっくりと頷いた。

 彼女も将の安否を案じているに違いないのにと考えると、知美の目頭が熱くなってくる。

 廊下を駆けてくる足音が聞こえ、髪の毛を二つに結んだ少女が知美と伊代の目の前で足をとめる。彼女がどれ程急いでここにやってきたのかは、彼女の乱れた呼吸が教えてくれていた。

「お父さんは?」

 そんな短い言葉でも切れ切れになる。

「大丈夫よ。少し待ちましょう」

 伊代はため息混じりに呟く。

 優子は知美を睨む。彼女の視線は今まで知美に向けたどんなものよりも鋭く、苦しげに見えた。

「あなたのせいよ」
 
 優子の体は震えていた。

「あなたがいるからお父さんがこんな目にあったのよ」

「止めなさい。優子」

 いつもよりも鋭く言い放つ伊代の言葉に何かを感じたのか、彼女は唇を強く結ぶと、知美を睨む。
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