マリー
 知美は家を飛び出すと走り続けた。一刻も早くこの場所から離れないといけないと思ったのだ。


 だが、自分の影が薄くなったのに気付いて、足を止める。

 先ほどの刺すような鋭い光がすっかり消失していた。その原因は空に現れた黒い雲だ。青空を黒いうねりのある雲が覆い尽くしていく。

 雲から雨が毀れ、知美の頬を濡らす。

 突然の雨に戸惑う間に、辺りの景色が霞む。

「このまま雨に溶けれたら良いのにね」

 知美はマリーが入ったかばんを握りしめる。

 知美は前に歩き続ける。歩く時間に比例して体が重くなっていく。夏なのに手足が冷え、息が上がる。

 霞む視界に崖が浮かぶ。奥には青々とした森が連なっていた。

 知美はその場所に引き寄せられるように、歩を進めた。


 森の入口には私有地につき立ち入り禁止という看板が立てられている。だが、知美はその看板を無視して、森の中に入る。




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