マリー
 眼下にあるのは青々とした芝生だ。そこにはごつごつとした岩が転がっている。飛び降りれば頭から落ちる事は知っていた。この場所はマンション三階分の高さの差があるので、助かる可能性は低いだろう。この先に楽になれる、誰も傷つけない方法を確信した。

「ちょっとそんなところに居たら危ないでしょ。何しているのよ」

「友達だもん。わたしが死んだら、成仏してね」

 そう手に持っていたバッグをなぞる。バッグからマリーの声が聞こえてきたが、その長い言葉を理解する余裕が知美にはなかった。

「ごめんね。真美、伯父さん」

 真美が庇ってくれ最初の友達になってくれたのに、彼女の命を奪ってしまったことによる後悔の念。

 将は近所の目などがあるにも関わらず、知美を招きいれてくれ、今までの事情を知ってもあんなに優しく接してくれた。

 伊代も手紙の件から察するに知美を良く思っていたわけではないだろう。それでも将の事故後も優しく接してくれたこと。

 様々な気持ちが入り乱れるが、今しようと思っている行動は正しいと言い聞かせる。

「知美、わたしは」

 言葉が短かったからだろう。その言葉を理解することはできた。

「一緒に消えよう」

 知美は深呼吸をすると、風の煽る場所に歩を進めた。
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