マリー
 姪という言葉に、自分と将の関係を連想した。

「洋服」

「着ないからもらってもいいし、捨てても良いと言っていたよ」

 彼女の笑顔を思い出し、知美は頷いた。

 だが、マリーの事が脳裏を駆け巡り、反射的に体を起こそうとした。

「わたし、行かなきゃ」

「どこに?」

「遠くに。そうしないとみんな死んじゃうかもしれない」

 知美の言葉に岡崎は眉根を寄せる。

 知美の肩に大きな手が置かれる。岡崎は穏やかな瞳で知美を捕らえていた。

「何があった? ゆっくりでいい。話してくれ」

「でも、校長先生に何かあるかもしれない」

 彼は目を見張り、首を横に振る。

「君のお母さんがこの町を出て行くときに、最後に会ったのはわたしなんだ。ずっと悔やんでいたよ。彼女に悪い噂が立っているのは知っていた。だけど、その時、わたしには何もできなかった。もう、あの時のような後悔をしたくないんだ」

 彼の優しい瞳は、知美の周りで不審なことが起こっても変わらなかった。

 彼なりに知美のフォローをしてくれていたことは知っている。


< 157 / 206 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop