マリー
 彼が全てを知り、蔑みの表情を浮かべるかもしれない可能性も考えた。

 だが、それ以上に彼が変わらないと信じたかったのかも知れない。

 知美は単語をつなげながらも今までに起こったことを彼に伝えることにした。話が進むにつれ、岡崎は時折相槌を打ちながら、唇を噛み締めていくのが分かった。

次第にその顔色が話に生気を吸い取られていくかのように青ざめていく。

「そうだったのか。だから、君のお母さんは」

 彼の悟った表情は知美の知らない事実を知ったのだと感じさせる。

「教えて下さい。どうしてあの人形が話をするのか、どうして人を傷つけたり」

 知美は言葉を噛み締める。その喉につっかえた言葉をどうにかして体の外に押す。

「殺そうとするのか」

 岡崎は天を仰ぐ。そして、短く息を吐いた。

「体のほうは?」

「大丈夫です」

「わたしはマリーという名前を知っているし、思い当たることはある。だが、証拠はないし、間違っているかもしれない」
< 158 / 206 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop