マリー
「それでも知りたい。お願いします」

 彼は知美の懇願に折れたのだろう。ため息を吐くと、辺りを見渡す。

「今からちょっと出かけるけど、ついて来れるかい?」

 知美はうなずく。

「マリーは? 置いたままにしていたら危ない」

 岡崎は穏やかな口調で言った。

「大丈夫だ。すぐに帰ってくる」


 家の外に出ると、彼は車を出してくれた。その車に乗り込むと、エンジンがかけられる。後部座席には知美の鞄が置かれていたが、マリーの姿はない。

 知美は今の状況が呑み込めないながらも、岡崎を信じることにした。

 彼は無言で車を走らせる。車が止まったのは洋館の前だ。その近くには見渡すばかりの田んぼと野原が広がっている。一見物語に出てくる城を連想させるが、その建物自体は古ぼけて見えた。

 庭の木々は自由に伸び、芝生は手入れをされていないのか伸びきっていた。建物を見渡せば、窓や扉にも蔦が巻き付いており、人が住んでいるようには見えなかった。

 知美はその家を見て、「あ」と声を漏らす。以前伊代と買い物に行こうとしたとき、車から見た家だ。
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