マリー
「ここはわたしの教え子の家だった」

 彼は悲しみに沈んだ目でその家を見つめていた。

 「少女の名前は橘麻里。彼女の母親が外国の人で、栗色の髪に薄い金の瞳の綺麗な子だったよ」

「麻里って」

 知美の脳裏に浮かんだのが、ここに来た時に夢の中で見た、マリーと名乗った金髪の少女だった。マリーと麻里。名前があまりに似ていたのだ。

 岡崎はゆっくりとうなずいていた。

「人形の持ち主だよ」

 岡崎は鍵を取り出し、門の鍵を開ける。低いうなり声が辺りに響く。彼は知美を招き入れ、玄関の扉を開けた。

 光が遮断されており、目を凝らさないとどこに何があるのか分からない。かび臭い臭いが鼻をつく。

「家の人は?」

「麻里の亡き後この場所を去ったが、この家は結局売らなかった。娘の思い出の残った場所だから、残しておきたかったのだろう。わたしは彼女の父親と古い付き合いでね、鍵を預かっているんだ。外観だけはと、出来る限りは手入れをしてきたが、なかなか難しいね」

 知美は寂しい外観を思い出し、何も言えない気持ちになる。
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