マリー
「それってわざと?」

「だと思う」

 歯切れの悪い言葉に胸が痛んだ。

 知美の脳裏には不意に今までの自分の姿が蘇る。知美はいつも美佐を待っていた。仕事で忙しいときも自分を忘れないでいてくれるように、理由を作って話しかけようとしていた。

 冷たくあしらわれても、自分のことを忘れて欲しくなかったし、いつかは自分を受け入れてくれるのではないかと思っていた。だが、期待して失望しての連続だった。

 麻里も同じような気持ちでいたのではないかと感じたのだ。

「橘さんの両親は、酷く悲しんでいたよ。二人共年を取ってからの子供だったから、その分可愛がっていた。特に、彼女の母親は精神的に堪えたんだろう。彼女が亡くなった後も、娘のごはんを作り、彼女の送り迎えをするために学校へも幾度となく足を運んでいた。

そして、いろいろあって、橘さん夫婦はこの地を去ったんだよ」


 その時の状況を思い描き、唇を噛んだ。

「校長先生は麻里ちゃんがマリーだと考えているんですか?」

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