マリー
 引越しの日は新しい旅立ちを祝うかように晴れ渡った空だった。

 学校へは何度か顔を出し、挨拶などはすませていた。

 クラスの子から別れを告げられ、この場所から離れることに対する実感が沸き、焦燥感を覚える。

 だが、悲しいことばかりではない。

 今日から将の家で暮らすことになるのだと思うと、悲しみを和らげてくれた。

 知美がアパートの外に出ると、ワゴン車が停まっていた。

 車に積まれているのはほとんどが知美の荷物だった。

美佐のものはほとんど載っていない。

それはとりあえず彼が知美の荷物を運び、時期を見て美佐の荷物を運ぶことを決めたからだった。

「大きい荷物は後から送ってもらうから」

 知美は将の言葉にうなずいていた。

 将の家とこの家がそこまで離れていないこともあり、後から来て家を引き払うらしい。そのため、ゴミや荷物もまだ部屋には残っている。

 名残惜しい気持ちで古いアパートを見つめる。


「最後に家の中を見てみるかい? 何か欲しいものがあれば言ってくれれば、それは持っていくよ」

 知美はうなずくと、アパートの中に戻る。最初に見たのは自分の部屋だった。残っているのは何もなく、埃の跡があった。

 ざわついた心を抑え、リビングを見渡す。

 だが、ごはんを食べるためだけに利用したリビングは部屋に比べると、特に愛着がわくこともない。

 知美の視線はその奥にある部屋で止まる。
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