マリー
 何度も覗くなといわれていたが、そう叱責した彼女はどこにもいない。

 そう考えたとき、知美の足は自然とその場所に向かっていた。

 その前に立ち、深呼吸をすると、金属製のノブに手を伸ばしていた。

 冷たい感触がしっかりと手のひらに伝わってきた。

 カーテンの隙間からわずかな光が漏れているだけの暗い部屋が視界に飛び込んでくる。

 知美は胸を高鳴らせながら、部屋の中を見渡す。本が数冊置いてあるだけの机と、その机を照らすためにおいてあったと思われるスタンド式の電灯、そして本棚だった。その本棚にはカバーのかけられた本が数冊あるだけだった。

 母親の亡きあとから使っていないと思われる三つ折りの布団がビニール袋に入れられている。

 何もない部屋。

 それが知美のこの部屋の感想だ。

 彼女が何を考え、この部屋で日々を過ごしたのか。


 彼女の人生にふと思いを馳せる。だが、結論が出ることはなかった。

 もう車に戻ろうとしたとき、クローゼットから物音が聞こえた。

 知美は不思議に思い、クローゼットを開ける。そこにはブルーのごみ袋が置いてある。

 中身を確認すると、古めかしい洋人形が出てきた。

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