マリー
 車で坂道を上ると、辺りの森がより深くなる。知美が窓の外を覗こうとすると、岡崎から注意される。

 彼の車は山道の途中で止まった。坂に分け入るように簡易な線が引かれた駐車場がある。そして、その奥にある階段をあがると静観な建物が目の前に広がる。

 知美は辺りを見渡ながら、岡崎の後をついていく。

「先に人形を受け取ろうか」

 知美が頷くと、二人は寺の本堂に入ることになった。靴を脱ごうとしたとき、年配の女性が顔を覗かせ、岡崎と言葉を交わす。そして、彼女は「待っていてほしい」と言い残すと、奥に消えた。

 再び戻ってきた女性に奥にある和室に案内される。

 時間を置いて間衣を来た男性が入ってきた。顔を見て、杉田という男だと気付いた。

 彼は洋人形を大事に抱きかかえたまま、知美の前に来ると膝をついた。

「麻里ちゃんは?」

「もう大丈夫。あの子としてでなく、この人形を大事にしてあげてくださいね」

 知美は人形を受け取り、頷いた。

「一つだけ良いですか?」

 知美の問いかけに、杉田は首をかしげる。

「一日だけ一緒に星を見たいの。それもダメですか?」

 杉田の目線が人形に向く。

「今夜だけなら大丈夫ですよ。晴れると良いですね」

「ありがとうございます」

 知美は笑顔で人形を抱き寄せた。
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