マリー
真っ暗な病室の中で栗色の髪の女の子が泣いていたらしい。将はその子に駆け寄ろうと思ったが、怪我か夢か分からないが、体が動かなかったらしい。
女の子は目に涙を溜めながら寂しそうに微笑むと
ごめんなさい、と言ったらしい。
何度も。
そのときに知美や美佐の名前も出てきていたような気がするとのことだった。
次に将が気付いたときには朝になっていたそうだ。病院の人に彼女のことを聞いても、そんな子はしらないし、入院患者にもいないという返事が返ってくるだけだった。
だが、知美は彼が見た少女はマリーだと確信した。
「彼女」
将が言葉をそっと置く。
「昔の知り合いに少し似ていた気がするんだ。もうこの世にはいない子なのに。その子も似た人形を持っていたんだ」
将の瞳が潤むのが分かった。その言葉で思い出したのが、まだ幼く、その後に起こる悲劇など知らない頃の夢。
「その事故に遭った日に、幻かもしれないけど、彼女の人形を見た気がするんだ」