マリー
「美佐がいつか自分に子供が出来た時には、ここに連れてきたいって言っていたんです。両親がいて、友達がいた時は、大好きな場所だった、と。それまでこの家を守りたい。僕が溶け込めば、いつか美佐の話を過去にしてくれるかもしれない。甘いとは分かっているんですけどね」

 彼ははにかみながら、そう岡崎に語ったそうだ。

 最初は仮定の話だった。だが、その話にいつしか知美という具体的な名前がつく。

 状況は変わらないかもしれない。むしろひどくなる可能性もある。でも、自分の大切に思う人が生まれ育ったこの地で、もう少しだけ頑張ってみたいと思ったのだ。

「もう少しだけ、頑張ってみます。でも、無理だと思った時には、話をします」

 必ずと言い切る事は出来ない。そして、勝手にいなくなったりもしない。

 それが知美なりの決意だった。

 彼はどこか心配そうに知美を見つめていた。

「中学校も通えそうなところがあれば調べておくよ」

 岡崎は花を生けると立ち上がった。

 白い百合が優しく佇む。
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