マリー
第十四章 愛しているから
 「そろそろ良い?」

 知美は窓を閉めると、辺りを見渡す。

 そして、部屋の外に出ると、将と目が合う。

「すみません。大丈夫です」

 知美は辺りを見渡し、短く息を吐いた。

 母親に心の中で別れを告げると、家の外に出た。

 将が続けて外に出る。

 立ち合いの不動産屋と目が合い、軽く頭を下げた。

 将は言葉を交わし、鍵を返す。

 知美はそのやり取りを見て、もう一度入口を見る。

 その時、白い息が知美の口元を覆い隠す。

 今日、昔住んでいた家を引き払うことになっていた。

 二人はもう一度不動産屋に挨拶をすると、階段を下りた。

「残しておきたい気持ちもあるけど、仕方ないね」

「でも、もうここに帰ってくることはないから。今までありがとうございました」

 知美は十二年間住んだ家を見上げると、目を細めた。

 もう季節は、冬がすぐ傍まで迫っている。今日は一際寒い。
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