マリー
 車に乗ると、すぐに動き出す。知美は身を乗り出すようにして、窓の外で流れる景色を見つめていた。

その度にシートベルトが知美の体を締め付けるが、苦しくない程度に顔を窓の外に向けていた。

それでも窓の外を頻繁に覗く姪を心配したのか、将に注意される。

そのたびに身を車の中に埋めるが、好奇心とともに彼女の体は前方に乗り出していく。車に乗った経験が少ないのも、好奇心を刺激した一因だった。


「車にはあまり乗ったことない?」

 頬を掠めるような言葉にうなずいていた。

 美佐も免許を持っていたようだが、車に彼女を乗せてくれることはなかった。


「これからは好きなだけ乗せてあげるよ。遠慮なく言って構わないから」

 知美はそんな将の言葉に何度もうなずく。

 彼は表情を和ませた。

「伯父さんの家には妻と知美ちゃんと同じ年の女の子がいてね。学校も同じだよ」

 学校という言葉に、もうここには戻ってこないと聞かされた気がして、身が引きしまる。新しい学校には明日から通うことになっていた。

 だが、新しい友達が出来るという期待もある。将の娘に対してもそうだ。彼の娘となら良い友達になれるだろうという確信があったのだ。

「仲良しになれるかな」

 将は目を細める。

「きっとなれるよ」

 二人は目を合わせて笑っていた。
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