マリー
 いつもより一オクターブ高い声で言う美琴に対し、優子は半眼で唇を尖らせる。

 知美は漫才のような二人の会話に思わず吹き出す。

 そのとき、二人は知美の存在に気付いたようだ。

 彼女は知美と目が合うと挨拶をする。

 優子が有名といったのはお世辞でも嫌味でもない。

 岡崎があの広い家に一人で住んでいたように、彼らの家はこの辺りの大地主だった。その名残で周りに異常に顔が利く。また、彼女の父親である岡崎敏は市会議員をやっているため、周りの人は一歩置いた目で接している。親世代であればより気を遣う。彼女自身も勉強も運動も出来、人当たりの良い性格で周りからも好かれていたらしい。

 彼女は岡崎に知美の家を聞きだし、良くやって来るようになった。優子の話によれば、知美のクラスメイトの親と会った時には、挨拶がてらに知美の話題を出していたらしい。もちろん、彼女が知美に良い印象を持っているという意味を込めてだ。

 岡崎によるとそれは建前でなく、本音だと言っていたが、知美には本当のところは良く分からない。ただ、優しい人だとは感じていた。それから、知美に対する嫌がらせはあっさりとなくなった。

 そのことを美琴に言えば、「人はそんなもんだよ」と、笑って返していた。


 将がこの辺りに住み続けてこられたのは、岡崎と親しかったこともあったのかもしれない。
< 202 / 206 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop