マリー
 知美は自分で勉強しようと思っていた。だが、美琴がその学校の出身らしく、教えたいと言い出した。そして、成り行きで、勉強をたまにだが教えてもらうことになったのだ。

 笑い、未来を意識するたびに、知美の頭にはここに来てからの出来事が過ぎる。

 もっと早く岡崎に打ち明けていたら、マリーはもっと早くに解放され、真美は今でも知美の友達として一緒にいてくれたかもしれない。

 その前に美佐が生きている時に部屋に入り込み、マリーを見付けていたら、彼女は自ら命を絶つことはなかったかもしれない。

 過去のこうしておけばと思う部分を抜きだし、悔やむことはいくらでもできる。

 知美が辛い気持ちを身近な人に打ち明ければ、被害になった人たちの事を頭に思い浮かべながら、「気にすることはない」と言ってくれるだろう。

 でも、そうすべきではないと思ったのだ。

 彼らがずっと悩み苦しんできたように、自分で答えを見付けないといけない。それが残された自分のすべきことだと思ったのだ。

「頑張ろうね」

 家の中に入った美琴は靴を脱ぎ、遅れて家の中に入った知美の頭を撫でる。彼女は明るい笑みを浮かべる。

 知美ははにかんだ笑みを浮かべて、頷いていた。

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