マリー
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 その日の夜、知美は夢を見た。

 昔住んでいたあの家の夢。まるで映画を見ているように全てのシーンがクリアに見えた。

 扉を開けると美佐が入ってきた。彼女は足音を殺し、眠っている知美に歩み寄る。知美の枕元に立つと、手を差し伸べようとする。だが、二人の距離を半分ほどの縮めたとき、その手を引っ込める。

「大嫌いだったわ。やっとあなたから逃げられると思うとせいせいする」

 吐き捨てるようなセリフを言った美佐の目から涙がこぼれていた。いつも知美に見せていた鬼のような形相ではない。今にも壊れてしまいそうなほど儚げだった。

 彼女は辺りを見渡すと、そっと知美の頬に触れる。壊れ物に触るような優しい手つきだった。

「大嫌いだった」

 その言葉が引き金のように涙がこぼれていた。

 恨みつらみを重ねている美佐の台詞に重なるように声が響く。


 ごめんなさい。私が死ねば全てが終わる。今まで、一度も抱きしめてあげられなくてごめんね。あなたの幸せをただ願っている。このままじゃ、あなたも奪われてしまうんじゃないかって思うと、怖くてたまらない。だから、わたしがいなくなる。こんな形でしか守ってあげられなくてごめんなさい。兄さんの言う事を聞いて、元気で過ごすのよ。ずっと大好きだった。この世で一番愛しているから。

 美佐は唇を噛み締めると、知美の部屋から出て行った。


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                   終
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