マリー
 知美の住んでいるところは商業地で家々が連なるように並んでいた。だが、この場所は田畑も至る所にあり、家々の距離が離れている。

 将の車は細い道に入ると、コンクリート製の塀のある和式の一軒家の前で止まる。家の佇まいから、年季を感じる。

 自分の家であることを告げ、知美を家の前でおろす。

 そして、車を家の脇にある駐車場に入れる。

 知美は初めて見る家を好奇心からただ眺めていた。昔ながらの和風の家という建物が実際の築年数よりも古い印象を与えたのかもしれない。



 そのとき少し香ばしさの感じる臭いが鼻先を突く。その風味のある香りを聞くと、匂いの正体がシチューだと分かる。

 手が肩に乗る。顔を上げると将がこちらの顔を覗くように見ていた。

彼は知美に目配せをすると歩き出す。行く手を遮る門の前に来ると、手を押し出して門を開けた。

甲高い音が閑静な住宅街に存在を主張する。彼が門をくぐったのを確認し、後を追うように家の前にある門をくぐる。

 木製の扉の前に来ると深呼吸をした。

だが、そんな深呼吸が終わる前に将は扉を開けてしまった。そのとき先ほど嗅ぎ取った匂いがより強くなり、知美の鼻先まで届く。
< 21 / 206 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop