マリー
 その匂いと将の手招きに引かれるようにして家の中に入る。

その匂いにかどわかされるようにお腹に手を当てた。

「あら、あなたが知美ちゃん?」

 知美の耳にそんな弾んだ声が届く。その人はすぐに分かる。細長い廊下に細身の女性が立っていたからだ。

その人は小走りに玄関までやってくる。そして、目を細めていた。

 髪の毛をショートカットにした女性で、その笑顔から優しい人かもしれないという期待に胸を膨らませる。

「私は伊代といいます。よろしくね」

 彼女は腰を屈めると、知美に手を差し出す。

 知美はその手の温かさを実感する。

「お腹が空いているみたいだから、ごはんを頼むよ」

 将の言葉に伊代は優しく微笑んでいた。

 彼女の白く細い指先がスリッパをつかむ。そして知美の目の前に並べる。

 顔を上げると、伊予はまた微笑んでいた。

 慣れない体験に、胸の奥が温かくなるのを感じた。
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