マリー
 その子は吐き捨てるように言った。その言葉には抑揚がなく、淡々と決められた台詞をつむいていた。

「悪魔?」

 知美は思わずそう呟いた。その理由を知りたい気持ちで先ほどの少女を仰ぎ見る。

彼女は相変わらず冷たい目で知美を見つめる。

彼女の唇が震え、次に向けられる言葉に体を震わせたときだった。

静まり返った空気を一掃するかのような将の強い言葉が響く。

「止めなさい。優子」

 その子は将を睨むと、階段を駆け上がっていった。

 その軽い足音が知美の心の奥に痕跡を残していく。
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