マリー
 強い光がまぶたを叩く。目を開けると、窓のカーテンの隙間から太陽光が射し込んでいたのに気づく。

 知美は手の平を凝視する。夢の中の出来事を思い出していた。夢だったはずなのに、知美の手には冷たい感触が残っていたのだ。

 ふと、我に返り、首を横に振る。

 今日から学校に行くのを思い出し、今日の洋服を探す。

部屋の入り口にはダンボールが五箱横に並べてあった。眠る前にはなかったので、眠っている間に将か伊代のどちらかが運んでくれたのだろう。

 中身を確認するために一番ベッドに近い場所に置いてある箱を開ける。

 そこには前の学校で開いてくれた簡素なお別れ会のときにもらった色紙が入っていた。

 前の学校での楽しい思い出が頭を過ぎり、思わず視界がかすむ。

 だが、仕方ないと言い聞かせ、涙を拭う。

 きっとこっちでも良い友達が出来るだろう。

 寂しさを紛らわせるため、隣の箱を開けた時、栗色の髪の毛が目に留まる。昨日、美佐の部屋で見つけた人形だ。

 その人形と夢の中の少女の姿が重なり合う。同時に彼女が自分の名前を教えてくれたのではないかとも考えていた。

そんな気持ちを抱いたとき、その人形の名前が必然的に決まる。

「あなたの名前はマリーね」 

 その人形を机の上に置くと、着替えを済ませ、部屋を出た。
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