マリー
「どこに住んでいるんですか?」

 知美の問いかけに、伊代は小さな声を漏らす。

「ごめんね。ずっと前に亡くなったの」

 知美は肩を落とす。

「優しい人だったのよ。家に帰ったら写真見せてあげるわね」

 知美はその言葉に頷くことしかできなかった。

 だが、彼女の心にある疑問がわく。

「伯母さんはお母さんのこと知っているんですか?」

「幼なじみだからね」

 伊代の表情に悲しみが浮かぶ。言ってはいけない事をいったのかもしれない。

 知美はそう感じ取り、顔を背け、口を噤む。

「ごめんなさい」

「どうして?」

「お母さんが伊代さんにひどいことを言ったんでしょう」

 伊代の足が止まる。そして、彼女は口元に手を当てると、優しく微笑んだ。

「そんなことないわよ。優しくてかわいい子だった。少しおっちょこちょいなところはあったけどね」

 思いがけない言葉に、伊代を見た。
< 33 / 206 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop