マリー
 薄汚れた窓に、古ぼけた印象の校舎。高田と知美が歩くたびに、床が軋む。

 以前通っていた学校は校舎が新しかったため、アンティークなイメージの校舎は逆に知美の好奇心を刺激する。

 窓の外に紫陽花の花を見つける。そういえば、もうそんな時期だと思い起こす。

 知美は雨があまり好きではない。雨は空が泣いているような気がしたからだ。

 知美にとって美佐は怖い存在だった。そんな彼女が雨の降る日だけは人が変わったようにおとなしくなり、部屋から出てこないことも頻繁にあった。

 そのことに気づいたときから、雨は人の気持ちを表しているのではないかと漠然と考え始めた。

 視線が刺さるのを感じ、前方を見ると高田が無言で知美を見る。

 知美は謝り、彼との距離を縮めた。

 高田は何も言わず、歩き出す。

 何も言わない高田に違和感を覚えたが、その気持ちは言葉にしなかった。

 もう一つのおかしなことに気づいたからだ。

 知美が高田に追いつくと、高田の歩幅が大きくなったのだ。

 避けられているのではないかと直感的に察する。


 知美は学校でも友達が多いほうだった。美佐には冷たくあしらわれる一方で、先生からは可愛がられることが多かった。

 ここは今までいた学校とは違う場所なのだと、目の前のひょろりとした男に教えられたのだ。
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