マリー
 知美はなぜクラス内でこうした扱いを受けるのが分かった気がした。優子とクラスメイトを同一視したのだ。

 知美は教室の外に出ると、息をつく。人気のない廊下に出ると、やっと異世界から今の場所に舞い戻ったような安らぎがある。

 前の学校の友達を親しく思い、唇を噛んだ。

 だが、彼女の心は響き渡るチャイムによって再び打ち砕かれる。

 この場所から逃げ出したい。そう思っても、教室に戻るしか術がないことを理解していた。

 深いため息を吐き、ドアに手を掛けたときだった。ドアの奥から人の話し声が聞える。

「ねえ、あの子って優子の家にいるのでしょう?」

「一応ね」

 彼女の心情を如実に表しているような、低い呻くような声だ。

「怖くないの?」

「仕方がないでしょう。親父たちが勝手に連れてきたからさ。関わらないようにするよ」

「かわいそう。あんな子、母親と一緒に死んじゃえばよかったのにね」

 優子と話している人の顔も名前も知らない。だが、知美を傷つけるには十分だった。

 知美の瞳から一筋の涙が零れ落ちる。彼女はその涙が床に落ちないように右手の甲で拭っていた。
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