マリー
「何でもないです」

「あら、校長先生」

 さっきまで陰口を叩いていた声より一オクターブ高い声が響く。知美が振り返ると、そこには先ほどの女性たちがいた。彼女たちの顔があからさまに引きつる。

 二人は一瞬、知美を嘲るような表情を浮かべた。

「失礼します」

 知美は堰をきったように、その場から立ち去ろうとした。

「川瀬さん」

 彼に呼び止められ、知美は恐る恐る振り返る。

「あなたの家の近くで用事があるので、途中まで一緒に行きましょう」

 知美に弁解する間も与えずに、岡崎は知美の傍まで来る。

 そして、先に歩き出した彼の後を追うように、知美は歩き出した。

「学校はいいんですか?」

「大丈夫ですよ」

 その時、呼吸を乱して走ってくる女性の姿が見えた。

「ごめんね。遅れちゃって」

 伊代は知美に前に来ると、頭を下げた。

 彼女はサマーニットにジーンズとラフな格好に着替えている。


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