マリー
 色あせた写真に優しそうに微笑む男女が映っていた。女性は赤ん坊を抱き寄せている。

「これは伯父さん?」

 伊代は頷いた。

「今から三十年程前よ。客間で撮った写真だと思う」

 二人を見た知美に第一印象は優しそうな人だ。そして、男性に美佐の面影を感じていた。

「ありがとう」

 知美が写真を返したとき、階段をあがる音が聞こえてきた。

 優子だろうか。

 伊代に悪いと思いながらも、今日のやり取りを思い出し、胸が痛んだ。

 伊代が優子を呼び止めなかったため、ほっと胸をなでおろす。

 知美はお菓子を食べると、自分の部屋に戻ることにした。

 だが、ドアを開けてぎょっとする。

 草や枝が部屋に散らばっていたのだ。こんな事をするのは一人しか思い浮かばない。

 知美は隣の部屋にいる彼女を恨めしく思いながらも、部屋に散らばったものをまとめてゴミ箱に捨てることにした。
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