マリー
 知美の心の声を否定するかのように、人の声が耳に届く。

 だが、知美はその声の主がどこにいるのか分からないでいた。

「どこを見ているのよ。ここよ」

 知美は体を起こし、部屋の中をうろつく。

 まるでかくれんぼをしているような気分だった。

 だが、虫一匹見当たらない。

「机の上にいるじゃない」

 その言葉に導かれるように机を眺める。そこにあるものを見て、息を呑む。

 悪戯かもしれないと逸る気持ちを抑えゆっくりと歩み寄っていく。

 丁度腕を伸ばせば手の届く位置に達したときに足をとめる。金の瞳にとらわれているような錯覚を覚える。だが、彼女は身動き一つしない。

 失望と、安堵する気持ちが入り乱れる。

 失望した気持ちが知美の口を開かせた。

「マリーなの?」

 返事は聞こえない。

 マリーに手を差し伸べた。その時、知美の指先を冷たいものがかすめたのだ。

「そうわたしよ」
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