マリー
第四章 濡れ衣
 教室の前に来ると、手提げ袋をそっと抱き寄せた。

 朝、目覚めると知美はマリーを抱きしめていた。知美は人形のマリーと話をする夢を見て、そこで彼女を学校に連れて行くと約束したのだ。

 実際に連れて行くべきか迷ったが、やけにリアルな夢が印象に残り、知美はマリーとの約束を守る事にした。

 深呼吸をして扉を開けると、教室内のざわめきが消えた。

 自分の机に行くと、目が熱を帯びるのが分かった。机が不自然な白さになっていたためだ。誰かが黒板消しをはたいたのだろう。

 知美はそのまま教室の外に出た。

 廊下に出た後、教室内からは笑い声が響いていた。

 知美は手洗い場を見つけると、バッグから雑巾を取り出す。この学校では雑巾を二枚持っていくことになっているらしく、持たせてくれたのだ。

 バッグを青のタイルの上に置き、蛇口をひねる。雑巾で水しぶきを受け止めようとした。

「これ、使っていいよ」

 その声と共に、少し汚れた雑巾が差し出される。

 それを差し出したのは両サイドで三つ編みを結った女の子だ。

 見たことがあると感じたが、名前はまだ出てこない。

 彼女は蛇口を開けると、雑巾を濡らし、両手で絞る。


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