マリー
 放課後になり帰りのホームルームが始まった。だが、最低限の進行で放課後になる。

 その途中、岡江と前田が知美を見ながらひそひそ話をしていたのが目に入る。

 だが、出来るだけ彼らと目を合わせないようにする。

 あいさつが終わり、生徒が教室から出て行く。

 知美も教室を出ようと鞄に手を伸ばしたとき、背中に軽い衝撃が走る。

 知美の手から鞄が離れ、床に転がる。

「ああ、悪いな」

 岡江のやけに甲高い声が耳に届く。

 だが、知美の関心は床に落ちた鞄に向かう。鞄から茶色の髪が飛び出していたのだ。

 知美は慌てて鞄を拾い、マリーを鞄の奥にいれる。

「先生、川瀬さんの鞄に何か入ってます」

 前田は手を天井に向かって真っすぐに伸ばすと、知美を得意げな目で挑発する。

 だが、陽気な二人のクラスメイトとは異なり、高田はあからさまに嫌そうな顔をする。

 騒がしかった教室が一気に静まり返る。
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