マリー
「何か入っているのか?」

「入ってません」

 とっさに嘘が出てくる。だが、嘘を吐いてしまったことに後から気づき心臓が破裂するのではないかと思うほど、胸が高鳴っていた。

「そういうことだ。これで終わりだ」

「それってひいきじゃないですか? この前、僕の持っていたカードを取り上げたくせに」

 前田はふてくされた顔で高田を睨む。

 高田はため息を吐いくと、知美を見る。

 クラスメイト中から好奇の視線が集まる。高田の出方を伺っているのだろう。

  高田は立ち上がると、知美に近づいてきた。彼の顔は怪訝としているわけでも、教師としての威厳で満ちているわけでもない。眉をひそめながらも唇を軽く噛んでいた。


「とりあえず岡江のこともあるから、鞄の中身をちらっと確認するだけだ」

 言い訳めいた言葉を並べた高田の手が知美の鞄に伸びる。

 知美は思わず鞄を胸元で抱いた。
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