マリー
 受話器を電話に戻す。

 彼女の家族からそう言われ、少なくとも自分の役目は終わったはずだ。

 だが、彼女の笑みを思い出すと、心の奥がうずく。

 岡崎は唇を軽く噛む。

 まだ終わっていない。

 最後に目撃したのは自分なのだ。

 そう考えると岡崎は洋服を真新しいシャツに替える。

 先ほど入ってきたばかりの玄関まで戻ると、靴箱の上に置いてある合羽を袋から取り出す。

 それを羽織り、家の外に飛び出す。

 先ほどとは比べ物にならないほど激しい雨になっていた。

 景色が白く霞んで見える。

 手提げ袋しか持たない白井美佐がどこか遠くに行くことは不可能だろう。それに、一刻も早く見つけ出さなければ彼女が危険な目に合う可能性もある。

 雨に打たれながら、岡崎は足が動く限り彼女の姿を求めた。だが、日付が変わる頃になっても白井美佐は見つからなかった。




 その日を境に白井美佐の消息が途絶えていた。
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