マリー
「分かっているよ。お前じゃ、俺より遅いし、無理だって」
頬を膨らませた湯川を無視して岡江は話を続ける。
「それに一瞬だけど、女を見た気がする。茶色の髪と目をした女。目は金色に近いくらい明るい色で」
真面目な表情の岡江の頭を前田が後ろから筒状にしたノートで軽く叩いた。
「何か夢でも見たんじゃね? 金色に近い目をした女なんてこの学校にはいないよ」
「確かにな。頭打ったから記憶がごっちゃになっているのかも」
扉があき、今度は優子が別のクラスメイトと入ってくる。
彼女は挨拶をして、廊下側の席に座る。
彼女のところに笠井がかけていく。二人が話をするのを何度か目にした事がある。仲が良いのだろう。
狭い教室内なので、教室の端の声も知美の耳に届いていた。
優子が岡江を指差し、肩をすくめた。
「大丈夫なの?」
「打ち身だから大丈夫らしいよ。本当、ドジだよね」
「聞こえてんだけど」
岡江は大げさに肩をすくめる。