マリー
 笠井は岡江の言葉を聞いて笑っていた。

「茶色の髪、ね」

 優子はそういうと、知美を見て口元をゆるませていた。


 昼休みを終え教室に戻ると、教室内が閑散としている。嫌な予感がして教室を開けると既に鍵が締められていた。

 次の授業は音楽だ。移動教室かも知れないと思ったが、憂鬱な時間が教室に戻るタイミングを遅らせたのだ。

「川瀬さん」

 知美が振り返ると、呼吸を乱した門田が立っていたのだ。

 彼女は鈍く光る鍵を知美に渡す。

「ごめんね。音楽室に着いたら川瀬さんがいないのに気づいたの」

「ありがとう」

 知美は彼女から鍵を受け取り、教室に戻ると教科書を取り出す。その時、いつもより大きなチャイムの音が鳴り響く。

 慌てて教室を出ると、一恵が立っていた。彼女は知美と目が合うと、目を細めた。

「ごめん。授業、遅れちゃったね」

「いいのよ。行こうか」

 彼女は知美を先導するように歩き出す。知美も小走りに彼女の後を追う。
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