マリー
 その時、金属音が耳の奥をくすぐる。

 伊代が車の鍵を手にしている。

「今から買い物に行くわ。知美ちゃんも便箋を買いにいかない?」

「行く」

 彼女と暮らして数日だが、いつもは知美が帰ってから出かける事はほとんどない。

 わざわざ待っていてくれたのだろう。

 玄関まで行き、靴を履いた時、玄関の扉があく。

 淡い太陽の光と共に、優子が入ってきた。

 彼女は知美と伊代を見て、顔をしかめた。

「買い物に行くわ。優子も行く?」

 だが、優子は何度も首を横に振ると、知美を睨む。靴を脱ぐと、そのまま階段を駆け上がっていく。

 今日も何か言われるのかと思ったが、何も言われない事にほっと胸をなでおろす。

 そして、伊代と共に家を出ると、銀色の車体の車に乗り込んだ。

 知美は運転席に座り、シートベルトをはめた。そして、車のカギを締めたと合図する。

 伊代は「了解」というと、エンジンを吹かす。
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