マリー
 唸り声をあげ、車が走り出した。知美はシートベルトに押さえつけられながら、窓の外を眺める。

「知美ちゃんは車が好きなのね。将さんが言っていたの」

 知美はうなずくと、駆け抜けていく風景を目で追った。

 弱々しくなった太陽の光が辺りを包み込み、ここに来た時に見た景色とは別世界に迷い込んだような錯覚さえ覚える。映像のワンシーンを見ているようだった。

 だが、道一つ隔てたところに、うっそうと木々が生い茂る家がある。

「あれ」

 知美が伊代を見ると、彼女は目線を泳がせ、小さく「ああ」と口にした。

「あそこはもうだれも住んでいないの。この辺りは家主が引っ越してしまうと、多くが空き家になるのよ」

「すごく穏やかな場所なのに」

「その分、交通の便も悪いし、人の入れ替わりもほとんどないの。ここを出ない限りは小学校の友達は一生の友達。そんなところなのよ」
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