マリー
 だが、伊代の心配をよそに、知美は紫陽花の絵がプリントされた便箋を手に取る。

「これがいい」

「他にはある?」

「大丈夫」

 伊代は知美から便箋を受け取ると、レジに行く。そして、ついてきた知美に白の薄手のビニールに入った便箋を渡す。

「ありがとうございます」

「どういたしまして。いつでも困ったことがあったら言ってね」

 伊代はそう言うと知美の頭を撫でた。

 一瞬、学校での様子を覗き見られたような気がした。

 知美は「分かった」とだけ言うと、心の中で彼女に謝っていた。

 車を出て、家に入ろうとしたとき、聞きなれたエンジン音が耳に届く。

 ちょうど、将の車が車庫に入ったところだった。

 伊代は知美に声をかけると、一足早く家の中に入る。

 将は車を降り、知美の傍までやって来る。

「買い物?」

「向こうに住んでいたときの友達から手紙が来て、おばさんに買ってもらったの」

 知美は白い袋を将に見せた。

「そっか。よかったね」

 知美はうなずくと、将と一緒に家の中に入ることにした。
< 68 / 206 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop