マリー
 ホームルームが終わると、笠井は早速湯川を捕まえていた。

 だが、顔を引きつらせている笠井とは異なり、湯川は顔色一つ変えない。

「先生に頼まれたからよ。学級委員のわたしが同じ班になってやってくれって。他の班より一人少ないから妥当でしょう」

「だからって断れば良いじゃない」

「別にわたしは頼まれたから入れただけ。他に他意はないわ」

 笠井は知美を睨んだ。その視線の鋭さに知美は体を怯ませる。

「修学旅行に参加するつもりなの?」

「そうだけど」

「嫌よ。あなたとなんか行きたくないわ」

 知美も行きたくはない。だが、伊代には言い出せない。

「絶対仮病で休んでよね」

「わたしも仮病に協力してあげる」

 優子が人懐こそうな笑みをして寄ってくる。

「あなたが毎日学校に来ているだけでも嫌なのに。もう最悪」

 笠井はがっくりと肩を落とす。髪の毛の隙間から、座った彼女の目を伺いしることができる。

「あなたは事態を理解していなさすぎよ。あなたが一緒にきたら、このクラスから死者が出るじゃない。あなたのお母さんの時のようにね。……もしかして、わざと?」
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