マリー
 放課後、真美と靴箱を出ようとしたとき、穏やかな声をした男性の声が聞こえてきた。振り返ると、グレーのスーツに身を包んだ岡崎の姿がある。

「クラスには馴染めましたか?」

 知美はためらいがちに頷いた。

「何かあったら、いつでも言っていいんだよ」

 知美の表情から何かを悟ったのか、岡崎はそう言葉を重ねる。

 だが、クラス内での出来事を彼に言うのは憚られた。それに、いずれ彼女の耳に届く可能性はあるにせよ、真美の前であの話をしたくなかったのだ。

 はい、と小さな声で返事をすると、岡崎は「気を付けて帰るように」と言い、職員室の方に戻っていく。

「校長先生と知り合いなの?」

 真美は不思議そうに首を傾げる。

 知美は首を横に振った。


「転校した来た日に挨拶をしたくらいかな」

「そっか。転校生が珍しいからかもしれないね」


 真美は疑問が解けたのか、明るい表情を浮かべていた。
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