マリー
 翌日、学校に行くとクラスがしんと静まり返る。その様子に嫌な予感を感じていた。ふとクラスメイトと目が合うと、あからさまに目を逸らされる。

 昨日の話の影響かと思ったが、それを言葉にはできない。

 いつもと違う事と言えば、いつも知美より早く来ている笠井の姿がないことだった。だが、知美は気に留めずに、鞄から教科書を取り出すことにした。

 知美の一つ前の席が埋まったのは、一時間目が終わった、太陽が眩い光を放ち始めたときだ。教室の扉を開けた笠井がいつもより重い足取りで教室に入ってくる。

「大丈夫?」


 笠井に駆け寄ったのは優子だ。彼女は教室までついてきていた笠井の母親から荷物を受け取ると、席まで付き添っていた。笠井の左足にはギブスがはめられ、床につかないように、松葉づえを脇の下に挟み、体を支える。

 笠井が知美を流すように見るが、目を合わせようとはしなかった。

 教室中の視線が笠井と知美に突き刺さる。

「全治どれくらい?」

「二か月だって」

「階段から落ちたんだってね。災難だったね」

 優子と笠井の言葉が教室内に響き、まるで知美に語りかけるような感覚に陥る。

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