マリー
「落ちた、ね」

 笠井はため息を吐く。

「岡江君は押されたんだよね」

「そうだけど」

「落ちたというよりは誰かに背中を押された気がするの。その後はよく覚えていなくて、錯覚かもしれない」

「俺のときと同じじゃね?」

 岡江の言葉に、笠井は体を震わせた。

「茶髪の女は?」

 岡江の問いかけに笠井は首を横に振るだけだった。

「覚えていないの。気絶したから」

「加奈子が落ちたのは、つき当たりの二階と三階の間だよね。そこでこんなものを見つけたの」

 優子の手から流れるような鮮やかな茶色の髪が垂れていた。

「前田君のお母さんに聞いたけど、昔もそうだったんだって。全てではないにせよ、たまに金色の髪の毛が落ちていたってね」

 優子は口角をあげて勝ち誇ったような目で知美を見る。

「クラス内でおかしなことが起こりだしたのってあいつが転校してきてからだよね」

 示し合わせたようなタイミングで優子の友人がそう告げる。

 高田が入ってきて、その会話からは逃れられた。だが、知美に刺さる視線は時間とともに鋭くなっていく。
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