マリー
 岡崎が職員室の扉を開けようとしたとき、教員の話し声が聞こえる。

「また、六年二組の生徒が怪我をしたそうですよ」

「やっぱりあの子が引っ越してきてからですよね。こんなことが起こるのは」

 話をしているのは六年一組を持っている藤井と五年の担任の増岡だった。

 岡崎はため息をつくと、扉を開けた。

 ざわついていた職員室が一気に静かになる。その中を見渡しても生徒はおらず、ほっと胸をなでおろす。

 こうした噂話がいつの間にか事実として広がる可能性もある。

 白井美佐のときのように。

「あまり変な話をしないようにしてください。生徒達の間でもそんな噂が流れています」

 その岡崎の言葉に返事を返す者はいなかった。覚悟を決めて、言葉を続ける。

「本当にあの子が原因なら、前の学校でも同様のことは起こると思います。だが、そんな事実はない。だから、ただの偶然の一致でしょう」

 誰もはっきりと反論はしない。だが、幾人かの表情に不満が見て取れる。

 昔のことを多少なりとも知っている人ほど、不満をあらわにしている。

 その表情が彼女の噂の根の深さを示しているような気がしてならなかった。

 岡崎はため息を吐くと、短く息を吐いた。
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